そして夜が明ける(後)

 

          

          「・・・・・・・!!!」

          付きつけられたその事実に、トランクスは声を上げる事もできなかった。
          目の前に広がる枯れ果てた草々。
          空の上から緑だと思われたそれは
          夕日がかった太陽が大地をより一層茶色くさせたことによる副産物だったのであろうか。
          目の前に萎れている草は緑とはほど遠いものだった。

          「・・・・そ・・・・そんな・・・・・・」

          屈みこみ、草々を見つめるトランクス。
          しかし、我に返ると、慌てて悟飯の方を降りかえった。

          「・・・ご・・・・悟飯さん・・・・・」

          悟飯はただその草々を見、佇んでいた。 
          涙も流していないその様子が、逆にトランクスの心を締めつける。

          「・・・・悟飯・・・・さん・・・・・・・。」

          「・・・・・地球は・・・・・・・・・・・」

          「え・・・・・・?」

          悟飯の口が小さく動く。

          「・・・・・地球は・・・・・・・こんなにも・・・・こんなにも・・・汚れてしまって・・・・・・・・」

          (・・・お父さん・・・・・お母さん・・・・・・・)

          悟飯の心に、父や母と一緒に過ごした、パオズ山でも思い出が次々と浮かんでくる。

          母と一緒に散策したこと。
          父と一緒に木々の間でかくれんぼをしたこと。

          悟飯の頬に、涙が伝う。
          思い出が心に浮かぶ度に、涙が流れていく。

          「・・・悟飯さん!!行きましょう!!ね?ね?もう家に帰りましょう!!」

          これ以上ここに居たらダメなような気がして、トランクスは必死に悟飯の腕を引っ張る。 
          悟飯の涙を見、自然とトランクスの目にも涙が浮かぶ。

          「帰りましょう悟飯さん!!」

          そして、トランクスは悟飯を飛行機へと連れていき、
          二人はそのまま、日が落ちるまで飛行機の中で沈黙していた。

 

 

 

 

 

          「・・・・・・・・・・・・」

          もうどの位空を飛びつづけているだろうか。すでに日が落ちてから
          かなり時間が経っているように思われる。
          しかしトランクスは無意識のうちに、徐々にと、パオズ山の方へと向かっていった。
          そして、ある程度パオズ山に近づくと、そこでトランクスは始めて自分がパオズ山に向かって
          飛んでいたことに気がついた。

          「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

          相変わらず、荒野が広がっているように思われる。
          トランクスはその近くの、小高くなった丘に降り立った。

          「・・・・悟飯さん。御久しぶりです。」

          そう、そこには悟飯の墓があった。
          当初、緑が無いところに埋葬するのは居た堪れないということで、
          汚染を受けていない地へお墓を作ろうということもあったのだが、
          悟飯の日記には、もしものことがあったらパオズ山に帰りたい、ということが書かれて
          いたため、この地へとお墓を作る事になったのだ。

          「・・・・・・悟飯さん。オレ、身長伸びたでしょ?」

          悟飯の墓前にすわり、まるで悟飯に語りかける様に話しはじめるトランクス。

          「あれからもう、何年経つんでしょうね・・・オレの成長、悟飯さんにも見て欲しかったな。」

          「・・・オレね、タイムマシンに乗って、過去に行ってきたんですよ?
           悟飯さんはまだ子供で、僕のこと《トランクスさん》って呼ぶんです。
           ・・・・・・・・・・変な感じでしょ?」

          「・・・・・・・向こうでも、結局悟空さんは死んでしまわれたのですが、
           平和な世界になってますよ。」

          「そうそう!オレ、毎日悟飯さんの部屋の掃除してるんですけど、
           悟飯さん、女の子の写真の一つもないんですもん!つまんないですよ!」

          返事は返ってこない。でも、それでもトランクスは悟飯の墓に向かって話し続ける。 
          どの位時間が経ったかは定かではない。
          しかしそれでも、トランクスは話し続ける。

          「・・・・・・悟飯さん・・・・・。」

          と、急にトランクスは話すのを止めた。
          しばらく、静寂が、夜を包み込む。

          「・・・・・・・・悟飯さん・・・・・・このまま、世界は終わってしまうのでしょうか・・・・・・。
           折角人造人間を倒したっていうのに・・・・・待っているのは世界の終わりだなんて・・・・・・・
           そんなの・・・・・・ないですよ・・・・・・・・・・・・」

          俯き、墓の前の地面を見つめる。

          「・・・・・・・悟飯さん・・・・・・」

          目の辺りが熱くなる。

          「・・・・・・・悟飯さん・・・・・・!!」

          目に、溜めきれなくなった雫達は、トランクスの頬を次から次へと濡らしていく。
          トランクスはそのまま膝に顔を埋め、声を噛み殺しながら泣いていた。

 

          しばらく時が経ち、トランクスは自分の膝が少し明るくなっていることに気がついた。
          ゆっくりと顔を上げてみる。
          するとパオズ山の向こうが明るくなり始め、太陽が顔を出そうとしている。

          (・・・・・・・帰らないと母さんが心配するな・・・・・・)

          瞼を少し腫らし、目を真っ赤にさせながら、トランクスは立ちあがろうとした。

          「・・・・それじゃあ悟飯さん。また来ますね。」

          そうして、悟飯の墓の方を見た瞬間、トランクスは目を疑った。

          (・・・・・・オ・・オレ・・・寝ぼけているのかな・・・・・・?)

 

          目の前に広がる信じられない光景。
          悟飯の墓のある丘の向こうに草や、これから木になるであろう小さな芽が、
          朝露を抱え、少しづつ照らし始める太陽の光に輝いているのだ。
          トランクスにはとても幻想的なようにも思われた。

          (・・・・ゆ・・・・・夢・・・・・・・・?)

          近づいたら消えてしまうんじゃないかと思い、恐る恐る丘を降りて行く。
          しばらくじっと見つめていたが、
          その場に屈み、湿った草をそおっと触ってみる。
          トランクスの手に、朝露がつき、光だす。

          (・・・・・夢じゃない!!!)

          自分の手が濡れていることを確認すると、トランクスは興奮し、そのまま草の上に横になってしまった。
          朝露のせいで、トランクスの服は濡れてしまっている。
          しかし、そのことさえも、トランクスにとってはとても大きな感激をあたえた。

          (夢じゃない!!夢じゃない!!)

          何度も何度も、そこに草花があるのを確認する様に濡れたその手を握り締める。
          そして、トランクスは仰向けになり、次第に明るくなる空を眺めていた。

          「悟飯さん!!地球は・・・・・・地球はまだ生きてますよ!!」

          大切な人がそこに居るかのように、空に向かって叫ぶ。
          折角治まりつつあったのに、再びトランクスの目からは涙が溢れてきた。。
          しかし、今度は笑顔のままで。


             ――――――トランクス・・・・・・・・・・・―――――――

          「!!!」

          不意に、トランクスの耳に、自分を名を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
          ガバッと身を起こし、辺りを見まわしてみる。
          すると、トランクスから少し離れたところに何か人の形を象った光のようなものがあった。
          暖かく、柔らかいその光はトランクスの頭の中で、一人の人物と重なる。

          「・・・・!!悟飯さん!?」

          トランクスが呼びかけると、その光は大きく輝き出した。

          「・・・・!!!」

          その光に、思わずトランクスは目をつぶってしまう。
          しばらく、目を閉じているとは言うものの、目の前がチカチカとしてしまい、
          目を開ける事が出来なかった。

          「・・・・・・・・悟飯さん・・・・・・・・?」

          ようやく、チラつきがおさまり、徐々に目を開けていく。

          「・・・・・・・・・・・・・・!」 

          しかし、ようやく目が慣れて、辺りをハッキリ見ることが出きるようになると、
          すでに、光の塊も無く、トランクスのみが、その場に佇んでいた。

          (・・・・・・幻・・・・?・・・・・・・いや・・・そんなはずは・・・・・・・)

          先刻まで光が浮いていた場所に足を近づけてみる。
          しかし、変わった様子は特に無い。

          (・・・・・・やっぱり幻だったのだろうか・・・・・・・・・)

          少し物悲しい気分になり、トランクスは下を俯いた。
          すると、トランクスは自分の足元に、淡く光り輝いている一つの小さな芽を見つけた。

          「!!!」

          慌ててその場に屈み、見つめてみる。
          光り輝くその芽は、先程の光の塊と、同質のものの様に思えた。

          「・・・・・・・・・・・さ・・ん・・・・」

          そして、トランクスは小さく何かを呟くと、そのまま、いずれは高木樹になるであろうその小さな芽を、
          大切な人を抱きしめる様に、優しく、その手で包み込んだ。

 

          太陽が昇りきる。
          夜の闇は消え、朝の光が、トランクスと、明日の希望を携えたその芽を、
          愛しそうに照らし出す。

 

          

 

          

          「じゃあ、行って来ますね!母さん!」

          「今日も出かけるの!?」

          「はい!遅くならない内に帰ってきますので!」

          「ふ〜ん・・・まあいいけどね。・・あ!そうそうトランクス!ビッグニュースよ!」

          「?」

          くわえていた煙草を手に持ち替え、ブルマはトランクスの方へ歩み寄る。

          「な〜んと!汚染地域での植物の成長、どうやら、いい兆しが見えてきたみたいなのよ!
           この分なら、また世界に、緑が戻るかもしれないわね!」

          「・・・・『かもしれない』じゃなく、戻りますよ!絶対!!
           緑の力は、僕らが思っている以上に、力強いんですから!!
           ・・・・それじゃあ行ってきます!!!」

          そう、笑顔で答えると、ポカンとしているブルマを残し、トランクスは”いつもの場所”、あの小高い丘へと
          飛び立っていった。

          そしてトランクスは、
          その丘の小さな芽が、育ち、木になる様子を慈しみ、
          いつまでも
          いつまでも 見守っていた。

 

 

          大地に突き立てられたその羽は

          限りないその大地に力の前に風化され

          天へ伸びる木と共に、空へと、在るべき場所へと回帰する

  

          大丈夫

          ――――そこに生き物がいる限り、希望という光は消えないのだから

          

          


ぬあ!なんとか終わりましたね!(ホッと一息)
それにしても未来トラを中心に書くとは自分でも思っても見ませんでした。
ダークな最後にならなくてよかったです♪


     
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